10月3日に発表された、日本創発グループによる鈴木松風堂の連結子会社化。
表向きは「紙製パッケージメーカーの買収」ですが、その背景には、“デザイン×ものづくり”の再構築という、今の日本企業らしいM&A戦略が見えます。
💡「ブランドの出口」を自社で握る動き
鈴木松風堂は、創業100年を超える京都の老舗で、紙器加工や和紙製品を得意とする企業。
一方、日本創発グループは、印刷・広告制作・デジタルプロモーションを手がける上場企業です。
ここ数年、同社は「デザインは作るだけでなく、最終製品として届ける」という発想にシフトしています。
つまり、顧客のブランド戦略を“企画”で終わらせず、“モノ”として完成させるところまで統合する——今回の買収はその延長線上にあります。
印刷・デザイン会社が、製造・加工の現場を持つ企業を取り込む流れは、実は近年増えています。
理由はシンプルで、「ブランド体験」を一貫して提供できる企業が強いからです。
発注側からすれば、企画から製品化までを一社で完結できるパートナーは安心感があります。
🏭 中堅企業M&Aの現場で増える「水平統合」
今回のように、デザイン・印刷と製造・加工をつなぐ“水平統合型M&A”は、特に地方の中堅企業で増えています。
デザイン企業が製造を内製化する動きもあれば、逆に製造企業がクリエイティブ部門を取り込む例もあります。
例えば、
- 衣料品OEM企業がD2Cデザインチームを買収し、ブランド発信力を強化
- 建材メーカーがCGデザイン会社に出資し、プレゼン資料や提案段階の可視化を内製化
など、これまで“分業”だった領域をM&Aで統合しようとする動きが見られます。
製造力とデザイン力の掛け合わせは、PMIの難易度が高い一方で、成功したときの価値創出が大きい。
日本創発グループは、もともと多様な印刷・広告会社を束ねてきたPMI経験があり、そのノウハウをこの案件でも活かせるはずです。
🔍 今後の影響範囲
今回のM&Aは、単なる紙製品業界の話ではありません。
“モノづくり企業がブランドを持ち、ブランド企業がモノを作る”という、境界が溶け始めた象徴的な動きです。
この流れは、以下の領域に波及する可能性があります。
領域 | 今後の動き |
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パッケージ・印刷業界 | ブランド戦略を起点にした統合・再編が加速 |
地方製造業 | OEM依存脱却のためにデザイン・企画機能を取り込む |
デザイン会社 | 製造・EC・物流との接続を強化するM&Aに関心高まる |
🗣️関根のひとこと
僕自身、印刷や製造の現場を見てきて感じるのは、**“デザインと現場が離れすぎている”**という課題です。
現場の力をデザインに繋げるM&Aは、利益率を上げるだけでなく、人が誇りを持てる仕事を取り戻すきっかけにもなります。
今回の案件は、「地方の職人技術を都市型クリエイティブが支える」という良い形。
こうした“共創型PMI”をどう設計するかが、これからの日本型M&Aのテーマになると思います。
──ものづくり企業の買収や、デザイン組織の統合を検討している方は、ぜひご相談ください。
実務的なスキーム設計からPMIまで、一緒に考えましょう。